あなたのおかげで 私は今 ここにいる
「命を守り生き残ってくれて、今の私や沖縄がある。私が詩を詠むことで、体験者の気持ちが少しでも癒やされたらいいな」
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母はあなたを殺さずに… 慰霊の日、高校生が詠む沖縄戦
沖縄は23日、沖縄戦の戦没者を悼む「慰霊の日」を迎えた。糸満市摩文仁(まぶに)の県平和祈念公園では正午前から、コロナ禍により規模を縮小し、沖縄全戦没者追悼式が開かれる。式で読み上げられる「平和の詩」。戦後75年の今年、県内の小中高校生ら計1119作品から選ばれたのは、沖縄県立首里高校3年の高良(たから)朱香音(あかね)さん(17)の詩「あなたがあの時」だ。
〈「懐中電灯を消してください」/一つ、また一つ光が消えていく〉
詩は、2年前に平和学習で経験した、壕(ごう)の中での情景から始まる。
〈真っ暗になったその場所は/まだ昼間だというのに/あまりにも暗い/少し湿った空気を感じながら/私はあの時を想像する〉
沖縄戦のとき、祖父母は疎開していて助かった。体験者の話を聞くようになったのは、小学校の授業などから。そのたびに「自分がその場にいたらどう感じたか」を考えてきた。
〈あなたが青春を奪われたあの時/あなたはもうボロボロ/家族もいない 食べ物もない/ただ真っ暗なこの壕の中で/あなたの見た光は、幻となって消えた。〉
詩を書くにあたって意識したのは、今を生きる自分が沖縄戦を目撃したとして、そのときに、これまでつらい戦争体験を語ってきてくれた人たちに何をどう伝えたいかという視点だ。
〈あなたが声を上げて泣かなかったあの時/あなたの母はあなたを殺さずに済んだ/あなたは生き延びた〉
〈あなたが少女に白旗を持たせたあの時/彼女は真っ直ぐに旗を掲げた/少女は助かった〉
〈あなたがあの時/あの人を助けてくれたおかげで/私は今 ここにいる〉
詩の中で繰り返される「あなた」は、これまで高良さんが直接聞いたり、本で読んだりした体験者を重ねた。その姿を思い浮かべたときに一番伝えたかったことは、感謝の気持ち。
〈あなたがあの時/勇気を振り絞って語ってくれたおかげで/私たちは 知った/永遠に解かれることのない戦争の呪いを/決して失われてはいけない平和の尊さを〉
〈ありがとう〉
普段、友人同士で沖縄戦を話題にすることはほとんどない。追悼式での朗読が決まったとき、気恥ずかしさを感じて断ろうかと迷った。それでも、「わたしが発信すれば、同世代もちょっとは戦争や平和について話しやすくなるかな」と、引き受けた。
〈「頭、気をつけてね」/外の光が私を包む/真っ暗闇のあの中で/あなたが見つめた希望の光/私は消さない 消させない〉
〈あなたがあの時/私を見つめたまっすぐな視線/未来に向けた穏やかな横顔を/私は忘れない/平和を求める仲間として〉
高良さんは、沖縄戦を生き延びた人たちが「子や孫に同じ思いをしてほしくない」と口にする気持ちを、「すごく優しい願い」と受け止め、その思いを受け継ぐ決意を詩に込めた。そして、こうも話す。「命を守り生き残ってくれて、今の私や沖縄がある。私が詩を詠むことで、体験者の気持ちが少しでも癒やされたらいいな」
(朝日新聞6月23日 国吉美香)
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